自分より半分の体重しかないチームメイト。
彼は試合に出ることはできない。
体力的にも技術的にも。
本人がそれを一番よくわかっている。
タックル練習で対面になった。
”けがさせたらかわいそう”
そんな気持ちが頭をよぎって、当たる瞬間に力を緩めた。
「谷さん!本気で当たりませんでしたよね?僕を何だと思ってるんですか?」
「・・・・・」
ハッとした。
どんなチームにも試合に出られる人と出られない人がいる。
試合に出られない人の方が圧倒的に多い。
目指すレベルが上がれば上がるほどそのような状況になる。
試合に出場するどころか組織の一員でいることさえ難しい人だって出てくる。
彼はそこに該当していた。
彼は自分自身がチームの一員であることを誇りにしていた。
だから、練習は誰よりも熱心だったし、大きな声を出してチームを盛り上げていた。
自分が叶えられないことをチームメイトに託していたのだ。
仲間がフィールドで活躍し、勝利することで喜びを分かち合いたい。
そんな彼のささやかな思いを肌で感じて胸が熱くなったものだ。
その当時、彼は高校生。
自分の半分の年齢だ。
体重だけじゃなかった。
学校にラグビー部がないということで、何の伝手もなく独りでやってきた。
大人たちに混じってひときわ小さな高校生が練習に参加。
ぶつかれば軽く吹っ飛ばされる。
どれだけ勇気が必要だったか。
練習前や後に大人の会話についていくのも大変だっただろう。
彼のような存在がチームを更なる高みへ押し上げた。
これはまぎれもない事実であった。
勝利に近づくためには戦略や戦術だけではだめで、そこに熱が加わらなくてはならない。
組織が持つ”雰囲気”。
それは意図して作りだそうと思っても作り出せない。
自然と発生してくるもの。
だから、目的を見失わず、ひたすら尽くすのだ。
彼のあんな姿を見たら岡工の生徒たちはどう思うのだろう。
わが社の社員はどう思うのだろう。
負けたあの試合。
控え選手たちの雰囲気が頭から離れないでいる。